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また日常に戻った。

今までに喧嘩何てした事ある?

そう言わんばかりに、仕事の支度をしている。

綾乃はいつも早起きだ。

亜里守は学校か。

朝八時。日常。

一度起きるが、寒くて毛布に包まる。

遠くで「行って来ます」と聞こえた。



気付くと昼になっていた。

怠惰だった。

バイトにも行きたくない。

我侭を思いつくだけ口に出して吐き出した。

顔を洗って、バイトの支度をした。

外に出て後悔した。

凍てつく寒さを実感した。

やはりバイトなんて行きたくない。

思うだけ思って、自転車を走らせた。



バイトから帰って来ると、大きな箱が机の上に置いてあった。

覗くとケーキだった。

ああ、そうか。亜里守の誕生日か。

忘れていた。

時刻は夜中の一時。

ふと、人の気配がした。

亜里守が起きて来たらしい。

「おかえり。」

ただいま、続けてごめん。

何が?という顔をしてる亜里守に、誕生日を忘れていた事を告げる。

「いいよいいよ。」

そう言って笑った。

ちょっと考え事をしてる顔だ。

「んー、欲しい本あるんだ。」

「分かった、明日買ってくるよ。」

やったね、そう言って嬉しそうに飛び跳ねてる。

ホっと胸を撫で下ろし、暖かな気持ちになった。

こうして年が明けても一緒に居られた。

しかし、別れまでの時間はそう無かった。

亜里守は進学して、都会の大学へ行く。
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綾乃との雲行きが怪しくなった。

お互い我慢していた所が多すぎた。

ストレスが溜まっていたのだろう。

珍しく喧嘩をした。

滅多にしないものだから激しい物となった。

罵り合いに嫌気が差して家を飛び出す。

夜風に当たる。

コンビニで雑誌を立ち読む。

一時間程時間を潰して、外に出ると星が綺麗に見えた。

雲一つ無い、感動する様な夜空だ。

なにか込み上げて来る物があったんだろう。

涙がこぼれた。

自動販売機で、コーヒーを買う。

それを一気に飲み干して、携帯を取り出す。

グループ「家族」「綾乃」

電話を掛けるが出ない。相当怒ってるか、愛想を尽かしたのだろうな。

仕方なくメールを打って置く事にした。

打ち終わって、タクシーを拾う。

夜な夜な、実家へと向かった。

帰る場所は、綾乃の所か実家か。

実家と言っても、両親は滅多に居ない。

多忙で出てるのだ。

半年振りに帰った理由は、恋人との喧嘩。

情けない物だ、と自分に叱咤してみる。

真っ暗な部屋で外を眺める。

本当に綺麗な夜空だ。

そっと目を瞑る。

浮かんだのは、綾乃では無く亜里守の笑顔。

ああ、会いたいな。

いつの間にか、眠っていた。

大勢の人で、歩くのも儘ならない。

沢山の夜店が出ている。

浴衣姿の女性が目立つ。

ちら、と横目で亜里守を見る。

青の浴衣を着て、手には団扇を持っている。

「何食べる?」

見上げてくる瞳。少し潤んでいた。

「何が食べたい?」

うーん、と真剣に考えてる姿はちょっと笑える。

何でもいいよ、と突然笑顔になる。

たこ焼きを二人でつつきながら、夜の歩行者天国を歩く。

何人か、友人と会った。

恋人?とその度に聞かれたが、ああ、とは言えない。

家族みたいなものだよ、と適当に答えた。

亜里守の友達とも会った。

亜里守は何か必死に説明したり、一緒に笑ったり。

でも少し困った顔を見せたりしていた。

飽きさせない素振りだ。

二十三時を回って、家族連れの人達は帰途へ着いたのだろう。

若者だけが、まだ徘徊していた。

「そろそろ疲れた?帰ろうか?」

楽しい時間はすぐに終わる。

今日じゃなくても良い、また今度にしよう。

ずっと一緒に居られるのだから。

好きだと言う気持ちを伝えるのはまた今度にしよう。

だって、あまりに亜里守が楽しそうにしていたから。

このまま言わないで置こうか、でも・・・・・・。

決断力の無さに嫌気が差しながら、家へと向かう。

夜になっても、虫と暑さの煩わしさは消えなかった。

夏休みに入った。

毎日亜里守は昼まで寝ていて、寝ぼけ眼で「おはよう」と言った。

寝ぼけてる姿。

気持ちは惹かれる一方だった。

バイトに行って、綾乃に愛の言葉を言って、寝て起きて。

刺激が欲しいのか。

恋愛がしたくなったのか。

駆け引きが、気持ちの読み合いがしたいのか。

つまらぬ日常を脱したい。

でも・・・・・・。

恋人の娘に手を出すなんて。

まして、一緒に居られなくなる。

そうまでして?

一緒に居られるだけでは不満?

自問自答の日々。

七月も終わろうとしていた。

そんな折、街で祭りがあるという。

たまたま休みだった。

綾乃は仕事。

亜里守を誘って繰り出そうと思った。

「亜里守、祭りに行かないか?」

亜里守は、気持ちを知らない。

ただの家族だと思っている。思われている。

いや・・・・・・それ以下かもしれない。

居ても、居なくても日常は変わらない。

朝起きて、学校へ行って、遊んで、本を読んで・・・・・・。

自分の存在を、気持ちを伝えたい。

「いいよ、行こ。」

ああ、行こう。そこで、気持ちを伝える。

受け止めて欲しい。

意識して、考えて欲しい。

ずっと一緒に居る事が出来ますように、と。

気持ちの良い朝。

純白のカーテンから優しく差し込む光で目を覚ます。

時間は・・・・・・朝九時か。

ふと顔を上げるとパソコンの前に人影。

目をこすり、眼鏡を掛けて確認する。

パソコンにイヤホンを付け、音楽を聴きながらネットサーフィン。

そうか、今日は土曜日か。

学生は休みだ。

ふと部屋の戸が開く。

「おはよう、起きてた?」

主婦の香りがしない、亜里守の母親。

俺の恋人。

綾乃は仕事の身支度をしながら、横目で聞いて来た。

「今起きたよ。」

私もう出るから、と支度を続けている。

ふと亜里守を見る。

部屋着のまま、畳にペタンと座り込んでまだ眠そうにディスプレイを見つめている。

亜里守は幼稚だ。

アニメやマンガ、ゲームが好きな高校生。

俗に言うオタクだろうか。

でも話が合うから問題無い。

寧ろ、有り難い物だった。

男に興味は無いし、彼氏もいない。

彼女の魅力を誰も知らないし、誰も開拓しない。

それで良かった。

「あれ、いつの間に起きた?」

亜里守は不思議そうに、イヤホンを取りながら聞いてきた。

頭を撫でてやりたい。今すぐ抱きしめてやりたい。

自分の欲求を出してはいけない。

傷つけたくないから。

今を失いたくないから。


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